【読書録「インクルーシブデザイン」という発想 排除しないプロセスのデザイン、ジュリア・カセム著、平井康之監修、ホートン・秋穂訳、フィルムアート社、2014年】
何かものを作るとき、どのような発想で作っていくのが優れているのかについて書かれた本です。優れているというのは、経済的にも、人道的にも、美的にもという基準と考えられます。
特に、これまで主流だったデザインから排除されてきた人を意識することで、社会的により良いデザインが得られると訴えています。簡単にいうと、こういうことかと思います。
①ある商品において排除されてきた人たちの存在は何かを考える。例えば、今の絆創膏は、片手しか使えない人のことは考えていない。
②排除されてきた人たちに着目し、どのようなニーズがあるのかを考える。絆創膏でいえば、片手でシールを剥がすのが難しい。
③排除されてきた人のニーズだけではなく、これまでの主流のニーズをも取り込めるようなデザインを考える。絆創膏を摘んで剥がすことができて、すぐに貼ることのできる。障害がなくても、片手を怪我した人も使いやすくなる。
こうした例として、アアルトの「パイオミチェア」は結核患者が呼吸しやすいように、OXOの「Good-Grips」は関節炎のある奥さんが使いやすいように、という発想から始まって、多くの人が使いやすく、デザイン性も気に入った商品となっているということです。
ユニバーサルデザインは、ともすると、デザイン性や美性のことが考慮に入れられていないということがあるそうです。一番、普及させるのに課題であり、勝負となるのが、一般の人が受け入れられるのかというデザインの問題であるのに、と。
もう一点、多様性の重要性について著者は強調していました。デザインとは関係ない話のように感じられますが、多様性があることで、創造的な発見から創造的な表現も生まれる。自身の中でも多様性を大事に育てていきたいと思いました。
「多様性は人生のあらゆる面において新しく創造的な発見と表現の中に見出される。特にビジネスの面においては、それがあてはまる。それはまるで貝の中の砂塵がいつしか真珠となるようなものなのである。」(p.134)