佐賀住まい・福岡勤務の作業療法士の橋間葵です。
脳卒中後、ベッド上で安静しておかなければならない時期があったり、自分で起きあがれなかったりすると、脳卒中を発症する前よりどうしても活動性が落ちてしまいます。
その結果、筋力や体力が減少するということはイメージしやすいのではないでしょうか。
筋力や体力が落ちてしまうことは、脳卒中以外の病気やケガでもよく見られる現象です。
しかし、脳卒中では起きる機会が減ってしまうことによる筋力や体力の減少だけではなく、麻痺して動きにくくなった手足を使わなくなることで、脳にまで影響を及ぼすことがわかっています。
麻痺して動くにくくなった手足を使わなくなることで生じる脳内の変化は、脳卒中後、脳にダメージを受けて手足が動きにくくなった運動麻痺の状態がさらに悪化する可能性を持っています。
脳卒中後のリハビリテーションでは、麻痺した手や足を使う機会が減ることで生じる、脳への影響を知り、予防に務めていくことが重要です。
麻痺した手や足を使う機会が減ることで生じる脳への影響を整理してみたいと思います。
手足に関する脳の場所が小さくなる
脳は、手や足に関する場所が決まっており、場所ごとに必要な働きを分業して日常生活に必要な手足の動きを作り出す命令を下します。
脳の中の運動に関する場所のことを運動支配領域と呼びます。
手や足を固定する実験を行うと、脳内の手や足に関連する運動支配領域の縮小を認めます。
運動の命令を行う神経経路の活動性が変化する
手首をギプスで固定して、運動の命令を伝える神経経路の変化を記録した報告があります。
運動の命令を行う神経経路の活動性が減少するという報告が数多くあります。
健常若年成人の前腕から手指を24時間ギプス固定して運動神経の命令を伝える神経経路の活動性の変化を記録した結果では、固定後3時間で神経経路の活動性の低下を認め、その後も減少が続いたと報告しています。
この報告では、わずか固定後3時間で神経経路の活動性の低下を明らかにしましたが、24時間後にギプスを外すと数時間で活動性が元に戻ったことも報告しています。
一方で、長期間ギプスで固定すると、逆に神経経路の活動性が強まったという報告もあり、一定期間体を固定することによって生じる神経経路の変化のメカニズムの詳細は不明のままです。
左右の脳の活動が不均衡になる
脳には右脳と左脳があり、左右の脳が協調して働いていて、互いにブレーキをかけ合うように活動しています。この互いにブレーキをかけ合う機能のことを「半球間抑制(はんきゅうかんよくせい)」といい、左右の脳が協調的に働くために必要です。
脳卒中後は、左右の脳が互いにブレーキをかけ合うことができなくなり、左右の脳の働きのバランスが破綻してしまいます。
例えば、脳卒中で右の脳がダメージを受けて、左の手足が動かなくなった場合、左脳が右脳に強くブレーキをかけてしまい、右脳が左脳にブレーキをかけるはずの機能が落ちてしまいます。
この結果、右の脳は脳卒中でダメージを受けて働きにくくなる状態であるのにも関わらず、左脳から強いブレーキがかかることでますます脳の活動性が低下してしまいます。
さらに、麻痺した手足を使わず反対側の手足を使う機会が増えることで、ダメージを受けていない脳の活動性が高まり、左右の脳の活動の不均衡が強まるという結果におちいります。
脳卒中後、麻痺した手足を使う機会が減ると、脳内ではさまざまな変化が起こり、回復を妨げる可能性を持っています。
脳卒中後のリハビリテーションでは、麻痺した手や足を効果的に使い、不使用や誤った使い方を行わずに二次的なダメージを予防しながら取り組むことが大切だと思っています。
引用・参考
1) 北村 新 他:脳卒中片麻痺患者が生活のなかで麻痺手の使用・不使用にいたる過程.作業療法 38 : 45~53,2019
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jotr/38/1/38_45/_pdf/-char/ja
2) 松浦 晃宏 他:脳損傷後運動障害における運動野の機能再編. 理学療法の臨床と研究 第29号 2020年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jptpr/29/0/29_17/_pdf/-char/ja
☆*:.。. 最後まで読んでいただきありがとうございました .。.:*☆
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この文章は、橋間葵さんブログ「脳卒中リハビリよろず屋相談所」2023年8月27日のブログより転載させていただきました。