佐賀住まい・福岡勤務の作業療法士の
橋間葵です。
脳卒中後、麻痺側の腕や手指などの動きが少しずつ回復し、担当のリハビリスタッフから「巧緻動作の練習を始めます」と言われた方がいらっしゃるのではないでしょうか。
脳卒中後の麻痺側の腕や手指の状態は、脳のダメージを受けた部分や大きさ、症状が出現してからの初期治療やリハビリの内容で異なってきます。
大まかな腕や手指の動きが回復してくる方、麻痺側の動きがほとんど出現しない方などさまざまですが、巧緻動作が少しずつできるようになる方など、麻痺の手の回復の状態は人それぞれです。
普段の生活で、巧緻動作と言う言葉について、なかなか見聞きすることは少ないと思いますし、わたし自身リハビリの学校に入るまでは知らない言葉でした。
今回は、この「巧緻動作」について記していきたいと思います。
巧緻動作とは
広辞苑によると、巧緻性とは、「たくみでこまかいこと、精巧で緻密なこと」と記されています。
リハビリの分野において、巧緻動作の定義は一定したものはわたしが知る限り・調べた限りではありません。
鎌倉は「巧緻性とは単なる手指の運動能力のことではなく、細かな対象操作の能力のことを指している」と述べて います。
また、中村らは「上肢巧緻性とは運動がすばやく正確であること」と定義しています。
このように巧緻動作についての解釈をみますと、手指のみの動きではないこと、素早さや正確さなどの対象操作に対する能力のことをさしていることがわかります。
巧緻性について、以下の3つの機能的要素が基礎となると記している論文もあります。
✔ 目的とする方向に正確に手を移動する方向調整(spacing)
✔ 適度な力加減を行う力調整(grading)
✔ 速くあるいはゆっくりとリズムをとる時間調整(timimg)
これら3つの機能的要素が巧みに調和することで巧緻動作が成立します。
巧緻動作に関して毎日の臨床現場で感じていること
巧緻動作を臨床現場で考えてみると、「細かい動きを行うこと」と解釈している部分が多いのではないでしょうか。
たしかに、細かい動きを行うことは、かなりの熟練した・精度の高い動きが要求され、これらの動きができること自体は巧緻動作能力が高いと言われるでしょう。
しかし、上述の巧緻動作の3つの機能的要素が巧みに調和することで、細やかな・操作対象物に合わせた動きが成立します。
例えば、親指と人差し指の爪先で爪楊枝をつまめるだけでは巧緻動作ができるとは言いがたいと言うことです。
親指と人差し指でちょうどよい力加減でつまようじをつまみながら、歯と歯のすきまに爪楊枝を当てて、歯に詰まった食べ物を除去することができるとしたら、巧緻動作能力が高いと言えるでしょう。
歯と歯の間に爪楊枝をあてることができるのは、目的とする方向に手を移動することができ、歯と歯の間に挟まった食べ物を爪楊枝で取り出すことができるのは、爪楊枝を動かすスピードが適しているからです。
指先で何か小さいもの・細いものをつまむことだけが巧緻動作なのではなく、力加減やスピードや方向が調和した動きができることが巧緻動作と言えると思います。
このような意味合いから、臨床場面では巧緻動作の回復のために、小さいものを扱うだけではなく、手を動かす方向に関するリハビリ・力を調整するようなリハビリ・スピードやリズムに関わるリハビリを行っています。
最後に
今回は、巧緻動作について記しました。
脳卒中後、麻痺側の手が動きにくくなったとき、リハビリの中で「巧緻動作」という言葉を聴いたことがあるかも知れません。
そのとき、細かい動きをすることが巧緻動作であると説明されたかもしれませんが、巧緻動作には細かい動きができるために方向・力加減・スピードやリズムに関する能力が必要とまでは説明を聞いていない方も多いと思います。
ご自宅で、細かい動きを練習するとき、小さなものを扱う意識だけではなく、方向・力加減・スピードやリズムも意識してみるのもよいかと思います。
巧緻動作に関して、今回の内容がお役に立てると幸いです。
引用・参考
1)藤澤祐基 他:巧緻運動障害評価の考え方.Jpn J Rehabil Med 2017;54:219-225
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/54/3/54_219/_
pdf
2)福意武史 他:上肢巧緻性における基礎的3要素の分析.川崎医療福祉学会誌 Vol. 30 No. 1 2020 165-172
https://i.kawasaki-m.ac.jp/mwsoc/journal/jp/2020-j30-1/P165-172_fukui.pdf
☆*:.。. 最後まで読んでいただきありがとうございました .。.:*☆
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この文章は、橋間葵さんブログ「脳卒中リハビリよろず屋相談所」2023年3月5日のブログより転載させていただきました。